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「ねぇユーリ、にゃんと一声鳴いてみせてよ?」
そんな要望が彼に通るはずもない。
黙したまま古びた紙に視線を落とす彼は、どうやらスマイルの声を聞こえなかったものとしたらしい。
そんなことも分かり切っている。
だから次は、彼の手から本を取り上げる。
それから中身を覗いて一秒、興味を失くして床へと落とす。
すると、麗しい容貌はぐしゃりと歪み、鋭利な視線が漸くスマイルを捉える。
なんて綺麗な深紅だろうか、繰り返し同じことを思うけれど未だに飽きはしない。
「今日って猫の日なんだよ、知ってた?」
こんな情報も彼にとっては何の意味も無い。
そしてこの状況にとっても。
手触りの良いことを知っている白銀の髪へ触れようと手を伸ばし、それを払い落される。
柔らかなことを知っている白磁の頬へ触れようと手を伸ばし、それも払い落される。
唇も首も、どこであろうと許されるはずもない、だから払い落そうとして触れた細い手首を掴む。
「触れるな、不愉快だ」
ユーリは至って静かにそう告げながら、威嚇のように犬歯を見せた。
スマイルはこわいこわいと笑い、両手を上げて降参のポーズを見せた。
突き刺さるようだった双眸は重く逸らされ、それきり相手を見ようともせず立ち上がった吸血鬼は、その場からするりと立ち去った。
「ユーリってほんと、猫みたいだね」
今日という日を多少なりとも楽しんだスマイルは、満足そうに笑う。
ああでも、引っ掻き傷の一つくらいは残してもらってもよかったかな。
そんなことも思ったけれど、こぼしたミルクを嘆いても無駄だ。


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